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職員ブログ『環技セ日誌』

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所長コラム『随筆1_ウイルス(その2)』

2021.12. 9 所長コラム

その2.ウイルスの行動、感染症、免疫、共生

  • ウイルスの行動

 ウイルス粒子は細胞の表面に「吸着」して細胞内に「侵入」します。次に自らの「体」を壊し、中の遺伝子(DNAもしくはRNA)を細胞内部に放出して細胞内でDNAもしくはRNAを複製してウイルスのたんぱく質を「合成」します。それらが集まってウイルス粒子として「成熟」し、細胞から外へと「放出」されます。

  • 感染症と病原体

 細菌やウイルスなどが引き起こす病気を「感染症」といいます。これらはうつる病気で風邪、風疹、マラリア、結核などたくさんあります。病気を引き起こす細菌やウイルスなどを「病原体」と呼びます。病原体は数万種ありますが主に4つに分かれます。

 1つ目はウイルス。最も小さく、髪の毛の太さの100分の1以下の0.5μm(1μm100万分の1m)より小さいものが多い。インフルエンザやエイズなどを起こすものがある。

 2つ目は細菌。大きさは1~10㎛、光学顕微鏡で見えるぐらいの大きさです。結核や肺炎などの原因になる。

 3つ目はカビ。真菌とも呼ぶ。大きさは340㎛、水虫やぜんそくなどを引き起こすものがある。

 4つ目は一番大きい寄生虫。大きいものは長さが10mにもなる。マラリアなどの原因となる。

 病原体は鼻や口から人の体に入って増えるが、入り方には大きく3つの方法がある。

 1つ目はせきやくしゃみによる「飛沫感染」です。病気の人が咳やくしゃみをしたとき、病原体を含むしぶきの粒が飛んで他の人の手などにつき、その手で鼻や口に触ることなどでうつる。せきをしたとき、しぶきの粒は12m先にも届く。インフルエンザや風疹などがこれでうつる。

 2つ目は「空気感染」です。くしゃみなどのしぶきが乾いて水分がなくなり、病原体をふくむ小さな粒になると、空気中に長時間浮いていることができる。これを吸い込んでうつる。はしか、水疱瘡、結核などがこれにあたる。

 3つ目は病原体が付いた手すりやドアノブなどに触れてうつる「接触感染」です。そのほかに、血液や蚊などの動物を経てうつるものもあります。

  • 免疫

 免疫とは体の健康を維持していくために欠かせない大切なシステムで、病原体が少しだけ体に入っても病気にならないのは、体には病原体を倒す「免疫」という仕組みがあるからです。病原体が体の中に入ってもパトロールをする細胞がいて、病原体を見つけると食べて取り除く。もし、病原体が多ければ仲間の細胞に助けを求めて倒す。このときに体に熱や痛みが出る。免疫にはもう一つの種類があって、特定の病原体の目印を覚えておいて、同じものが体に入ってきたときに攻撃する「免疫記憶」がある。この働きを利用したのがインフルエンザや風疹などの予防接種です。病原体の目印をわざと体に入れて、司令塔役の細胞に特徴を覚えさせて、本物の病原体との戦いに備えさせる。すると病気にかかったり、症状が重くなったりするのを防げる。

 18世紀末に英国のジェンナーが天然痘の予防接種法を開発し、19世紀後半にはフランスのパスツールが狂犬病などのワクチンを開発した。19世紀末にはドイツへ留学した北里柴三郎が破傷風などの血清療法を開発、感染症の予防や治療法が相次いで登場した。

 紀元前のギリシャやインドでは、一度かかった病気には再びかかりにくくなる「二度なし現象」が経験的に知られていたという。病原体から体を守る免疫の現象に気づいていたようだ。免疫の研究の歴史は長いけれど、詳しい仕組みが分かってきたのは20世紀半ば以降です。遺伝子やたんぱく質などの働きから生体内の様々な機能を探る「分子生物学」が発展してきたおかげです。

 現代の免疫学では外敵が体に侵入してきたら最初に働き始める「自然免疫」と、外敵に応じた攻撃を仕掛ける「獲得免疫」の2種類が連動していると考えています。どちらも血液中にある「白血球」から生まれた様々な細胞が、それぞれ独自の役割を果たしています。

 人間に生まれながらに備わっている自然免疫では「好中球」や「マクロファージ」「樹状細胞」といった細胞が異物をとにかく食べまくり、分解して排除する仕組みです。ケガをした後に炎症が起きたりうみができたりすることがある。これは傷口の細菌などを攻撃して起きる現象です。「NK(ナチュラルキラー)細胞」は大きくて殺傷能力が高く、ウイルスに感染した細胞やがん細胞を攻撃している。

 獲得免疫では「T細胞」と「B細胞」の2つの細胞が活躍する。特にT細胞は獲得免疫の司令塔とも呼ばれている。T細胞には「ヘルパーT細胞」や「キラーT細胞」などの仲間がいる。ヘルパーT細胞は病原体を分解した樹状細胞から、どんな物質でできているのかという情報を手に入れていることが、これまでの研究で分かってきた。この情報をもとに、B細胞に対し病原体だけを攻撃する「抗体」をつくるように命令を出している。さらにマクロファージの活動も促している。キラーT細胞も樹状細胞からもらった情報をもとに、病原体に感染した細胞を見分けて攻撃を仕掛ける。自然免疫と獲得免疫が協調して外敵と戦っている。

  • 抗体

 抗体は体内に入ってきた病原体などの異物(抗原)を排除するために働く「免疫グロブリン」というたんぱく質で、特定の抗原にしか反応しない特異性がある。

 最近、人工的に抗体を作ってがんなどを治療する「抗体医薬」が、製薬会社の主力商品になっています。抗体はがん細胞にだけできるたんぱく質を目印に攻撃するので、従来の抗がん剤とは違って正常な細胞を傷つけない。効果が高く副作用の少ない薬として広く使われています。2018年のノーベル賞の対象となった「がん免疫療法」は新しい応用例です。免疫が働かないように情報をやり取りする仕組みが見つかり、がん細胞がこれをうまく使っていることが分かりました。そこで情報伝達を断ち切り、がん細胞を攻撃できるようにする抗体医薬が実用化されました。体の中にある抗体を見つけて肥満や糖尿病などの生活習慣病を診断する新しい方法の研究も進んでいます。

 

  • 免疫暴走

 免疫はとてもよくできた仕組みです。しかし、ときには暴走することもある。もともと体の中にあった細胞や組織を外敵と間違えて攻撃してしまう「自己免疫疾患」や、免疫が強く働きすぎて過剰な反応が起きる「アレルギー疾患」がある。

 自己免疫疾患では関節リウマチや多発性硬化症など様々な病気が知られ、原因が分からず難病に指定されている例も多い。関節リウマチでは活発に働いているたんぱく質が判明し、これを抑え込む医薬品が開発されました。大阪大学の研究者らによる基礎研究をもとに中外製薬が実用化にこぎつけ、日本発の大型医薬品の一つに数えられています。

 アレルギー疾患では花粉症やアトピー性皮膚炎がよく知られている。免疫の働きを抑える薬が治療に使われているが、感染症への抵抗力も下げてしまうため、バランスの取り方が難しい。症状が出る部分にだけ作用する治療薬の開発が目標になっている。

 

  • 免疫の主役「キラーT細胞」

 キラーT細胞は免疫反応を担う細胞の一種です。ウイルスなどの病原体が感染細胞の中で増殖して外に出る前に、細胞ごと殺す。結果的に病原体は増えない。抗体はウイルスとくっついて細胞に入れなくするため、ウイルスを排除する仕組みが異なる。キラーT細胞は体中の粘膜にいるとされる。敵の形状を覚えたキラーT細胞は、ウイルスに感染した細胞がいたらすぐに出動するが、健康な細胞は殺さない。

 キラーT細胞は変異ウイルスにも対応しやすい力を持つほか、高い効果を発揮するワクチンを支えている可能性がある。抗体と並ぶ「免疫の主役」として、今後の治療や感染防止対策のカギを握りそうだ。

 強い免疫には2種類ある。1つは抗体が活躍する液状免疫、もう1つは細胞が直接ウイルスの排除に関わる細胞性免疫です。このうち抗体は、免疫細胞が作り出すもので、ウイルスに結合し、細胞への侵入を防ぐ。抗体は1つの細胞がたくさん作るので、効率よくウイルスを除去できる反面、少しでもウイルスの表面のたんぱく質が変化すると、結合しにくくなり、効果が弱まる恐れがある。

 一方、細胞性免疫の主役はキラーT細胞です。ウイルスに感染した細胞を見つけて細胞ごと破壊するパワフルな細胞だ。新型コロナとの闘いで、このキラーT細胞が重要な役割を果たしているという研究成果が相次いでいます。そのひとつとして、キラーT細胞が世界中で猛威を振るう変異ウイルスを細胞ごと死滅させる可能性が高いことが分かってきた。

 米国立衛生研究所や米ジョンズ・ホプキンス大学は、通常の新型コロナに感染して回復した30人の血液中のキラーT細胞を分析した。3月に発表した結果によると、英国型、ブラジル型、南アフリカ型の変異ウイルスに対して、キラーT細胞は、認識・反応できることが分かったという。キラーT細胞は、変異ウイルスの変異していない部分も認識する。免疫に詳しい英インペリアル・カレッジ・ロンドンの小野准教授は「変異ウイルスに対してもキラーT細胞は反応して、排除しているとみられる」と話す。

 さらにキラーT細胞は、新型コロナのワクチンが、変異ウイルスの感染阻止や発症予防にも効果を発揮している理由にもなっている。

 米ファイザーや米モデルナの新型コロナ用のワクチンは、ウイルスの遺伝情報(メッセンジャーRNA)を体内に注射し、人工的に抗体を作る。実はこの抗体は一部の変異ウイルスにはくっつきにくい。一方で、ワクチンからできたたんぱく質がキラーT細胞を活発にさせ、感染細胞を壊している可能性があるという。抗体が効かなくても、キラーT細胞が働いてワクチンの効果を発揮しているという見方が出てきた。

 キラーT細胞は重症化防止にも威力を発揮している可能性もみえてきた。英ユニバーシティー・カレッジ・ロンドンなどの研究グループは、査読前の論文でキラーT細胞が感染してすぐに働くと重症化を防ぐ可能性があると報告した。

 新型コロナ感染後、軽症もしくは無症状ですんだ41人を対象に血液を分析したところ、感染後早い時期にキラーT細胞が増殖していた。初期に増殖できる理由について研究グループは、普通の風邪を起こすコロナに感染した記憶が残っており早く増殖できた等の可能性を指摘している。ラホヤ免疫研究所も、症状が異なる50人の患者の血液を調べた結果、キラーT細胞などがウイルスの除去や重症化を防ぐために重要とみる。

 ただ、抗体の量は容易に測定できるが、キラーT細胞は専門的な技術が必要で、手間もコストもかかる。キラーT細胞を人工的に増やす薬剤なども現在のところない。キラーT細胞を治療や対策に生かす技術開発は、コロナ克服に向けて重要視されそうだ。

 治療用のキラーT細胞を人工的に作る試みが国内で進む。京都大学ウイルス・再生医科学研究所の河本教授や藤田医科大などはiPS細胞を用いてキラーT細胞作製に取り組む。感染して回復した人のキラーT細胞から、感染細胞を認識するたんぱく質を作る遺伝子を特定し、他人のiPS細胞に組み込んだうえでキラーT細胞に変化させる。できたiPS細胞を感染した人に移植して、体内の新型コロナウイルス増殖を抑えることを狙う。2021年度中に遺伝子を見つけ出し、23年後の実用化を目指す。河本教授は「この方法は他のウイルスにも応用が可能だ。今後新たなパンデミックが起きた際にも対応できるだろう」と話す。

  • 共生

 二種類以上の生物が「相利共生」の関係になった場合、一方の生物が、その生来の能力や性質を活かし、もう一方の生物に欠けている能力や性質を補うという現象がみられる。これは、ウイルスと宿主との関係でも同じ。宿主はまず、ウイルスに住処を提供する。そして、ウイルスが複製を作るために遺伝子機構を提供する。宿主がいなければ、ウイルスは生きていけない。そして、ウイルスの側も宿主にない重要な能力(進化論の用語では「形質」と呼ばれている)で共生関係に貢献している。その形質とは、ウイルスが生来持っている「攻撃性」である。動物を死に至らしめるような攻撃性である。「攻撃的共生」は進化にとって重要なメカニズムだと考えるようになった。

 攻撃的共生は、ウイルスが、これまでに感染したことのない新しい宿主に感染するところから始まる。感染後、ウイルスと宿主の間にどういうことが起きるかは、ウイルスが近い関係にある種から来たのか、それとも、関係の遠い種から来たかによって違ってくる。近い関係にある種から来たウイルスの場合は、個体から個体へ非常に効率的に感染する場合が多い。一方、関係の遠い種から来たウイルスの場合、個体から個体へ効率的に感染することは少ない

 このように、異なる種に感染したウイルスは、その後も進化を続けるとは考えにくい。だが、関係の近い種から感染したウイルスの場合は違う。関係の近い種、遺伝子が非常に似通った種に感染したウイルスには、その先に新たな進化への道が開ける。

 ここで重要なことは、関係の近い宿主に感染したウイルスに起きることは、基本的に常に同じである。第一に、元の宿主に近い種の個体に入り込んだウイルスは、いったん入り込めば二度と消え去ることはない。入り込んだ個体から消えることもなければ、集団から、種全体から消えることもない。この「いつまでも消えない」という性質を、生物学の用語で「持続性」と呼び、いつまでも消えないウイルスを「持続性ウイルス」と呼ぶ。そして、このようにいつまでも消えないという性質があるからこそ、ウイルスと宿主の間の関係が新たに進化していくことができる。ウイルスが宿主と長期にわたる関係を維持していくためには、当然、その間、宿主が生き延びなくてはならない。したがって、ウイルスが新しい宿主に感染しても、宿主が大きく体調を崩さずにすむ、ということもあり得る。

(文責:所長 松本 治彦)