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職員ブログ『環技セ日誌』

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所長コラム『随筆1_ウイルス(その1)』

2021.10.18 所長コラム

 このコラムで取り上げる話題の第一弾は今(202110月時点)、全世界で最も深刻な問題となっている「ウイルス」です。ウイルスについて分かっている事実と、無数にある意見について私なりにまとめてみます。

 ウイルスの研究は、2020年から2021年にかけて世界流行している新型コロナウイルに関連して、様々な分野での研究が進んでいます。しかしウイルス誕生は、生命の誕生とも絡んでわからない。ウイルスが最初は細菌のようなものだったのか、それとも最初から現在のウイルスの形だったのかもわからない。少なくとも我々の体あるいは自然界の生物に必ず宿主を選んで存在し続けていることは事実です。

 コラムでは「ウイルス」に関する基礎知識を「その1~その6」まで新聞記事やウイルス関連本を参考にして掲載します。そのうえで現在問題となっている「新型コロナウイルス感染症」に対処する方法(その7)を私なりに述べてみたいと思います。

 

その1.生物の分類からウイルスの立ち位置を考えてみる

  • 生物の分類

 アリストテレス(紀元前384~紀元前322年)以来、生物学者は多くの生物を観察して分類しています。その分類の基準は主に「見た目」で「種」「属」「科」「目」「綱」「門」「界」と上位に向かってくくられる決まりです。20世紀後半になると「動物」「植物」「菌」「原生生物」「原核生物」の5つのグループに分けるようになりました。

 現在、生物の分類は「見た目」から「DNAに書き込まれた遺伝情報」に変わりつつあります。DNAの解析技術向上で、系統(他の生物との進化的関係)に関する情報が得られる「リボソームRNArRNA)」遺伝子が注目を集めています。1990年、ウーズは原核生物を「バクテリア(細菌)」と「アーキア(古細菌)」の2つに、「動物」「植物」「菌」「原生生物」を同じグループ(真核生物)にし、3つのドメイン(超界)とすることを提案しました。

 さて生物学者は生物の基本単位を細胞としています。したがって地球上の生物は一つの細胞からできた「単細胞生物」と多数の細胞からできた「多細胞生物」どちらかになります。また、細胞の特徴は自己複製することです。

  • ウイルスの立ち位置

 ウイルスには全ての生物が持っている「リボソーム(数本のRNA分子と50種類ほどのタンパク質からなる巨大なRNA・タンパク複合体)」がない。リボソームはたんぱく質を合成する装置、それがないということは、自らたんぱく質を合成することはできない。つまり、現在の生物学ではウイルスは生物ではない。

 ウイルスは1890年代に、細菌が通れない「濾過器」の穴をすり抜ける謎の病原体として見つかりました。ウイルス(virus)はラテン語で「毒」という意味です。

 一般の人はよくウイルスと細菌を混同しがちですが、両者は根本的に異なっています。ウイルスの大部分は細菌よりもずっと小さく、光学顕微鏡ではみえません。電子顕微鏡を使うしか観察はできないのです(これについては、202012月に、デジタルカメラ用顕微鏡アダプター(8kタイムラプス)を使って光学顕微鏡による新型コロナウイルスの撮影に成功しています。新型コロナウイルスに感染した細胞が壊れるまでの様子を動画でみることができます。この成功により今後、ウイルスの研究は劇的に進歩すると私は思います)。

 ウイルスと細菌は、遺伝子という面からみても、大きく異なっています。ウイルスのDNAは多くの場合、直線状の塊で、人間の遺伝子に似ています。一方、細菌のDNAは一つのリングになっています。

 ウイルスの変異速度は細菌の約1000倍、そしてその細菌自体、人間の約1000倍の速さで変異します。変異が速ければ、抗ウイルス剤があっても、すぐに耐性を持ってしまう可能性が高いのです。

 ウイルスの遺伝子の大半は、細菌にも、植物にも、動物にも見られない。この事実は、ウイルスが自分だけの力で複雑な遺伝子を作り出す能力があることを意味しています。

 ウイルスは、たんぱく質の殻(カプシド)と、その内部に入るDNARNAからできています。殻の外側に脂質の膜を持つものもいます。遺伝情報をDNAに載せたDNAウイルスと、RNAに記したRNAウイルスに分かれます。ウイルスは生物の細胞に感染して増えます。

  • 巨大ウイルスの発見

 21世紀に入り、けた違いに大きく複雑な構造を持つ「巨大ウイルス」が相次いで見つかっています(100種類以上)。細菌だけにあるはずの膜や多数の遺伝子も持っています。巨大ウイルスが進化すれば、やがて想像を超えた生命体が誕生するとの見方も出ています。

 例えば「ミミウイルス(2003年発見)」は大きさが750㎚(ナノメートル;ナノは10-9)、DNAを脂質の膜で包み、外側が3重の殻で覆われ、表面に繊維まで生えています。ゲノムや遺伝子の数でも一部の細菌を上回る。さらに2013年に楕円の一方の直径が1000㎚のパンドラウイルス、14年に1500㎚のピソウイルスが見つかっています。パンドラウイルスの遺伝情報量は約250万塩基対と「真核生物」で最も小さい種を上回っています。増殖に役立つ20種類の遺伝子を全て備えた巨大ウイルスも見つかりました。

 

  • 海にいる無数のウイルス

 2018年、太平洋の5か所で集めた10ℓの海水から、842種類のウイルスが見つかった。そのほぼ全てが新種です。海のウイルスの数は1030乗個を超えると推定されています。例えば沿岸で採取した1㎖の海水中には数千万~数億個いることが分かっています。ウイルスは海洋中の微生物や藻類に感染します。藻類などは感染による死滅と増殖を繰り返している。海の生物への感染を通じて、有機物の循環に関わっています。

 一方で、ヒトや動物、植物に病気を起こさない種類も多い。海のウイルスの一部は赤潮を起こす植物プランクトンに感染します。ウイルスを使ってプランクトンを死滅させ、養殖カキや魚への被害を防ぐ試みも行われています。

 

  • ウイルスの誕生はいつ?

 ここでは、ウイルスが細菌より先に誕生していたという仮説を考えてみます(巨大ウイルスと第4のドメイン、武村政春著より抜粋)。

 まずDNAレプリコンを想定してみます。これはDNAを自律的に複製することができるDNAの単位、想定している形はプラスミドのような環状構造です。生命の起源では、こうしたDNAレプリコンが自己複製していた世界があり、その中から細胞が誕生したというシナリオです。ウイルスが誕生するには、DNAレプリコンがたんぱく質の殻をまとえばいい。

 最初の細胞性生物が誕生する前から、地球上にはいくつかのタイプのDNAレプリコンが存在していた。そのうち、一部のDNAレプリコンでは脂質二重膜が進化し、DNAの周囲を覆うようになり、その外周がカプシドたんぱく質で守られるようになった。そしてまた別のDNAレプリコンでは、DNAの外側を直接カプシドたんぱく質が覆うようになった。

 しかし、これには条件が付く。細胞が形成される前の世界に、すでにタンパク質が存在していたことです。ウイルスが先の仮説の骨子は、バクテリアやアーキアの祖先は巨大DNAウイルスです。つまり、巨大DNAウイルスの原型としてのDNAレプリコンが、生物とウイルスを含む全ての「生命体」の祖先であると考えています。

 巨大DNAウイルスの原型は、やがてカプシドたんぱく質を失い、細胞壁の獲得を達成し、バクテリアやアーキアへと進化した。一方、進化しなかった巨大DNAウイルスの原型は、バクテリアやアーキアへの感染という選択をした。なお、細胞に依存しないで代謝、自己複製を行っていたDNAレプリコンは絶滅した。これが「ウイルスが細菌より先に誕生していた」という仮説です。

 ここでプラスミドについて説明をしておきます。プラスミドは小さな環状のDNAで、バクテリアの細胞内に、そのゲノムのDNAとは独立して自己複製することができます。また容易に細胞から細胞へと移動できます。

 またカプシドたんぱく質は、ウイルスゲノムを取り囲むたんぱく質の殻のことです。

(文責:所長 松本 治彦)